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Talent Is Overrated

以前、マルコム・グラッドウェルの「Outlier」という本を紹介しました。
その中で、「10,000時間ルール」という説が紹介されています。
「どんな分野でもそれなりの結果を出すためには1万時間以上をトレーニングに費やさなければならない」
才能などは関係ない、トレーニングの量が大事だ、という話です。
もちろん、この話はマルコム・グラッドウェルのオリジナルの研究成果や取材結果ではなく、ほかの人々の研究成果がもとになっています。

そして、今日紹介する「Talent Is Overrated」(才能は過大評価されている)も、同じ研究成果をもとに書かれている本です。

おなじネタだとわかっているのに、敢えて読んだのには理由があります。
偉人や天才の幼少期の逸話として、次のような話を目にすることがあります。

  • 「ピアノを初めて3日目に大人よりも上手に弾いた」
  • 「数学の教師が書いた問題の間違いを見つけ、指摘したところ逆に怒られた」
  • 「教えていないのに三角関数を考えついた」

しかし、調査の結果、そのような実列を見つけることはできませんでした。

音楽学校の優秀な生徒(学校を卒業したあと、演奏者として世界的な活躍が期待できる)

並の生徒(卒業したら音楽の教師になると予想される) の違いは、
楽器を習いはじめてからその音楽学校に入るまでの練習時間だけだったのです。

優秀な生徒のそれまでのトータルの練習時間は1万時間以上。
この数字は、調査をしたほかの分野でも同様でした。

マルコム・グラッドウェルによれば、
「抜きん出た成果を上げるには1万時間のトレーニングが必要」

ここで疑問がわきます。

確かにどの分野でもトップにたつ人は、並外れた努力をしている人です。
(ここでは「才能vs努力」というテーマにフォーカスしているので、努力と才能以外の重要な要素「生まれ育った環境」や「タイミング」「運」「性格」などは忘れてください。)
しかし、だからといって、トップに立てない人、あるいはトップ争いをするどころかプロレベルにもなれない人が努力をしていないかというと、そうではありません。
練習時間の明らかな差が出るケースもあるでしょうが、それ以外の要素、つまり「トレーニングの質」そのものの差が大きいのではないか?

  • トレーニングの質が最も重要で、その上で時間数をかける必要がある。質が低いトレーニングはやるだけ無駄。
  • 受験勉強を例にとれば、勉強時間の差ではなく、勉強内容の差が重要なはず。

そう考えると、単純に時間数がもっとも大事だという話は釈然としないものだったのです。

  • 毎日1時間料理を作っていたら、30年後には世界一のシェフになれる?
  • 毎日、がんばって営業を続けていたら、5年後にはトップレベルの営業マンになっている?

前置きが長いですね。
この本は、その「才能 vs トレーニング」という話を発展させたものです。
マネージメント、チェス、水泳、手術、パイロット、ヴァイオリン、セールス、などの各分野で、
世界中で活躍しているトップレベルパフォーマーを対象に調査をした結果、次のようなことがわかりました。

・トップパフォーマーが持つ「才能」は、我々が考えるようなものではなく、彼らの達成している成果を説明できるようなものではない。
・トップパフォーマーは高度な知性や高い記憶能力を持っているわけではない。彼らを突出させているのは、そのような「超人的な能力」ではない。
・高いパフォーマンスを生み出すには、研究者たちが「deliberate practice」と呼ぶものが重要である。

「deliberate practice」という言葉は、「考え抜かれたトレーニング」と訳すとわかりやすいでしょうか。
では、「考え抜かれたトレーニング」とはどんなものか?

  • パフォーマンスを向上させるためにデザインされている。
  • 何度も繰り返すことができる。
  • トレーニングの結果を知ることができる。
  • 極度の集中を必要とする。
  • たいして楽しくない。

「パフォーマンスを向上させる」というのは、いま自分ができていることを練習するのではなく、まだできないことを練習する、ということ。
楽しくなくて、しんどいことだから、ほかの人には真似ができない。追随できない。
そういうトレーニングだからこそ、突出した能力を身につけることができる、ということのようです。

当たり前の話に思えます。
しかし「当たり前」ほど難しいものはありません。
この「当たり前」のトレーニングを1万時間繰り返すことができるでしょうか?
もう少し、日常生活に関係あるレベルまで話をかみくだきましょう。

このトレーニングの考え方を仕事に持ち込むとこうなります。

  1. 目標を立てる(大きな目標ではなく、小さな今日できる目標)
    目標を達成する手順を考える(漠然と、ではなく正確に考える)
  2. フィードバックを得られるようにする
    トレーニング中は自分をよく観察する(メタ認知)
  3. 結果を「現在の自分」のレベルではなく、「達成したい目標」のレベルで評価する

社員教育でも、OJTという名目でただ実務を経験させても、それが本人の成長にどのように寄与するかは、結局のところ、その上司の力量であったり、本人の努力次第であったりします。
OJTの設計に、このような「deliberate practice」の考え方を持ち込んでみると、面白いのではないでしょうか?

さらに詳しく知りたい方は、本書を読むか The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert ... をご覧ください(PDF/英語)