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世界でひとつだけの幸せ/オプティミストはなぜ成功するか

ここ数年、幸福論を読みあさっています
とはいってもアランやラッセル、ヒルティーなどの古典ではなく、行動経済学ポジティブサイコロジー(ポジティブ心理学)からみた幸福論です。
そのなかで、最高だと思うのがJonathan Haidtの「The Happiness Hypothesis」なのですが、今回はとりあえず、それらの源流と言えるポジティブサイコロジーの提唱者の著作を取り上げます。

もし、私たちが悲観主義の習慣を捨て、挫折を楽観的に見る方法を身につけることができるとしたらどうだろう?

ポジティブサイコロジーを説明するには、提唱者のマーティン・セリングマンの言葉を引用するのがもっともわかりやすいでしょう。

これまで順調に伸展してきたかに思える心理学も、一方では高い代償を払っている。
それは、患者に生きがいを与えることを重視してこなかったため、症状こそ和らいでも、 患者はみじめな人生を送っているという現実である。
ただ苦悩を和らげるだけでは、苦しみ、自暴自棄になっている人を、本当の意味で救うことはできない。
人はどん底にあっても、美徳や誠実さ、さらには生きる目的や価値を必死になって求めている。
本当に必要なのは、苦しみを理解して和らげることではなく、幸せを理解し築き上げることである。
人間の心はいつでも変えられる。今までの説をくつがえすもの、つまり、 人々の願いをかなえるもの、それが私の提唱する「ポジティブ心理学」である

つまり、ポジティブサイコロジーとは、いままでの心理学とは違い、「心の病になぜなるのか?どう治療するのか?」にフォーカスするのではなく、「幸福とはなんだ?どうすれば幸福になるのか?」を追求する科学です。

学習性無力感(Learned Helplessness)」という言葉をご存知でしょうか?
これはセリグマン本人が1960年代に提唱した理論で、「ストレスをコントロールできない状況に置かれた者は、何をしても意味がないという無力感に陥り、その状況から逃れようとする努力をしなくなる」というものです。鬱病に至る心理モデルの一つとして有力視されている理論です。
セリグマンは犬を使って実験をしたのですが、その内容は電気ショックを犬に与えるというものでした。
犬のいる部屋は壁で仕切られていて、電気ショックを受ける前に予告信号を伝えます。その段階で壁を飛び越えれば電気ショックを受けなくてすむ、という仕掛けです。
実験の対象は3つのグループに分けられていました。

  1. 電気ショックを与えられて逃げ出すことができた、という体験をしたグループ
  2. 電気ショックを与えられても逃れられなかった、という体験をしたグループ
  3. なにもしていないグループ

実験の結果、1番と3番のグループの犬が電気ショックから逃れた確率は80%。
一方、2番のグループの犬が電気ショックから逃れた確率は30%と顕著に差が現れました。
セリグマンはこの実験を、2番目のグループは「何をしても無駄」ということを学習してしまったため、回避行動をとらなかったと解釈しました。

「オプティミストはなぜ成功するか」の原題は「Learned Optimism」といいます。
「学習性無力感(Learned Helplessness)」にならって訳せば「学習性楽観主義」となります。
無力感を学習できるのと同じように、楽観的な物の見方も学習できる、という内容の本です。
もちろん、それだけではなく、どのように学習するのか、ということも書いてあります。

「世界でひとつだけの幸せ」の原題は「Authentic Happiness」。
直訳すると「本物の幸せ」。
こちらのほうが前者よりも包括的な内容ですが、ポジティブサイコロジーを理解する目的なら、どちらを読んでも問題ないと思います。
楽観的であることがどれだけ良いことだらけなのか(もちろん、悲観的であることの利点も紹介していますが)、よくわかると思います。

職場も学校も、成功は才能と意欲の結果であるという一般的な推論のもとに機能しており、失敗するのは才能か意欲が欠けている時だと考えられている。しかし、才能と意欲が豊富にあっても、楽観的な物の見方が欠けている時には、失敗に終わることもあるのだ。

ところで、学習性無力感に陥る人もいれば、まったく同じ状況でも無力感に陥らない人もいます。
この違いをセリグマン(正確にはティーズデールは)は「自分に起こった不幸な出来事を、どのように自分に説明するか」の違いだといいます。

これを説明スタイルと呼びます。

説明スタイルには永続性、普遍性、個人度の3つの重要面があります。

  • 永続性 … 嫌な出来事が起きたとき、それが永続的だと思うかどうか(例「私はもう立ち直れない」)
  • 普遍性 … 嫌な出来事が起きたとき、それが普遍性があると思うかどうか(例「お客はみんなわがままだ」)
  • 個人度 … 嫌な出来事が起きたとき、それが自分のせいだと思うかどうか(例「私は営業のセンスがない」)

無力感に陥らない人、つまりオプティミストは、嫌なことが起きたときには「一時的」で「特定」で「他人のせい」と自分自身に説明します。
つまり、上の例で言えば、「私は疲れている」「このお客はわがままだ」「商品の良さをわからないバカな客だ」と思うことができる人だということです。悲観的な説明スタイルを持つ人はその逆で「永続的」で「普遍的」で「自分のせい」と思う傾向があります。

簡単にまとめると、この説明スタイルを変える訓練をすることで、だれでもオプティミストになれる(学習性楽観主義)というのです。

実際に、この理論を応用した、メトロ生命という保険会社での実例が出ています。
採用時に通常の採用試験で合格しなかったけれど説明スタイルのテストで適性があると見なされた社員(特別班)と、通常の採用試験で合格した社員(正規採用者)の2年間の追跡調査をしたのです。契約獲得率で見ると特別班は正規採用者の平均を27%うわまわり、退職率も低いという結果が出ました。

人間にとって「周囲の状況をコントロールできるか」、というのは非常に重大なストレスを左右する要因のようです。
たとえば、「通勤の時間」や「うるさい騒音」など、自分でコントロールできない要因が周囲にあるとストレスが高まります。
しかし、「コントロールできない要因」というのは自分で変えることはできません。
そのときに、変えることができるのは「それについて自分がどう思い、どう感じるか」だけなのです。
「楽観主義を身につけることで選択肢が広がる」。これが本書のタイトルにある「成功」の秘訣というわけです。 宣伝っぽくて嫌ですが、当社でやっている研修の多くは、この「説明スタイルを変える」ことを目的としています。

翻訳書のタイトルは「世界でひとつだけの幸せ」にしても「オプティミストはなぜ成功するか」にしても、どれも安っぽい自己啓発書と区別できないタイトル・装丁で売られています。
でも、間違えないでください、ポジティブサイコロジーはポジティブシンキングではありません。
マーフィーに代表されるようなポジティブシンキングについてはここでは敢えて触れませんが、ポジティブサイコロジーはあくまでも科学的に根拠があることを追求しようとしている点でまったく異なります。

アマゾンのレビューを見ると、「楽観的に考えるのがいいよって、そんなの当たり前じゃん」と言う人もいるようですが、ただ漠然と「当たり前」というのと科学的な根拠を持って「大事だ」というのは、まったくレベルが違う話です。これはビジネス書ではないので、できれば飛ばし読みしないでしっかり読んでいただきたいものです。

ポジティブサイコロジーについてもっと知りたいという方は下記のリンクが参考になると思います(英語)
※テストもあります。

http://www.authentichappiness.sas.upenn.edu/default.aspx http://www.ppc.sas.upenn.edu/