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コンサルタントの秘密

副題に『技術アドバイスの人間学』とありますが、『技術アドバイス』の部分は無視してください。
専門的な話はちっともでてきません。
タイトルは『コンサルタントの秘密』ですが、原題が『The Secrets Of Consulting』なので『コンサルティングの極意』くらいがちょうどいい訳でしょうか。

原題からわかるとおり、この本はコンサルタントのための本というわけではありません。
問題解決に役立つ「法則」がたくさん収録されています。
問題解決に関わる人ならすべての人にとって必読書だと思います。
つまり、仕事をしている人ならどんな人でも読むべし、ということです。

私が本書を最初に手にしたのは18年くらい前、おそらく刊行直後だと思うのですが、そのころすでに「プログラマーにとってのバイブル」という位置づけになっていたと思います。
著者のG・M・ワインバーグはシステム開発関連のコンサルティングをしていて、開発プロセスにおけるリーダーシップや問題解決に関する著作もあります。そのためでしょうか、本書も素晴らしい内容にも関わらず、主にコンピュータ業界関係者の間で読まれてきました。

参考図書の章で、家族療法で有名なヴァージニア・サティアに影響を受けていると述べているところからもわかるとおり、著者のワインバーグはシステム導入をさせるタイプのITコンサルタントではなく、人間に関わって成長を促そうとする教師タイプのコンサルタントです。
そういった著者が長年の経験から生み出した問題解決に役立つ法則(ルール)を紹介しているのですから、それぞれの法則が技術的かつ専門的なものではなく、どんな分野にも適用できる普遍性を持っているのは当然のことでしょう。

いくつか抜粋してみます。

まずは、コンサルタントが新しい仕事を引き受けるときに、心に留めておかなければならないこと。

コンサルタントの第1法則
依頼主がどういおうとも、問題は必ずある。
そして、クライアントが考える「問題」は本質的な問題ではないことが多い。

コンサルタントの第2法則
一見どう見えようとも、それはつねに人の問題である。
仕組みは人の問題を解決するために導入しますが、「人の問題」は変化します。組織はつねに変化し続ける必要があるのです。

コンサルタントの第3法則
料金は時間に対して支払われるのであって、解答に対して支払われるのではない、ということを忘れてはならない。

コンサルタントは奇をてらった突飛な提案をするのではなく、クライアントが見失っている「当たり前のこと」をアドバイスするものです。そして、当り前のアドバイスや提案というのは、実際にプレゼンされるまでは気がつかないのに、プレゼンされたあとは「そんなことは自分でも思いついて当然だ」と思われてしまいがちなのです。しかし、もしコンサルタントがその提案をしなかったとしたら、クライアント自身で同じ解答に到達できるかというと、それはとても疑わしいのです。良い提案の多くはそういう提案なのだと思います。
もしも、解答に対して料金を請求するのだとすると、クライアントによっては、プレゼンを聞いた後で支払いを渋るケースも発生するでしょう。

ほかには、こんな法則もあります。

マーケティングの第3法則
週に少なくとも1日は、人目に触れるために使おう。

五分間の法則
依頼主はつねに自分たちの問題の解きかたを知っている。そしてその解答を、最初の五分間の間に口にする。

そうそう、この本にも、ひとつだけ気になる点があります。
それは翻訳本の宿命、「誤訳」です。五分間の法則の引用部分にも日本語としておかしい部分がありますね。
でも、読みはじめたらきっとそんな些細な瑕疵は気にならなくなるはずです。

それぞれの法則はどれもエピソードとともに紹介されています。
とても読みやすく、記憶にも残りやすい本です。