アインシュタインはフラッシュカードを使わなかった
自分の子供を「もしかして天才じゃないか?」と思うことは、親ならごく当たり前のことですね。
思いもよらない発想や、子供ならではの集中力など、子供の可能性には驚かされることがあります。
(逆に、自分の子供をネガティブに評価しつづける親がいるとしたら、子供よりも親自身に問題がありそうです)
しかし、親が自分の子供を「特別だ」と思う気持ちと、その子が「実際に特別な能力を持つ」かどうかの間にはギャップがある、というのもよくある話です。
そのため、このような親の「特別であってほしい」という思いが、子供にとって好ましくない事態を招くケースもあります。
Justin Chapmanという天才児がいました。
彼のIQはなんと298という信じられないほど高い値で、6歳にして大学に入学します。
ところが、この天才児の素晴らしい成績は、母親によって捏造されたものでした。
今回紹介する「Einstein Never Used Flash Cards: How Our Children Really Learn - And Why They Need to Play More and Memorize Less」は、子供の能力を高めるために、特に10歳以下の子供の知能を発達させるために、親にできることが書かれています。
IQを捏造することは、もちろん含まれていません。
タイトルを日本語にしてみると「アインシュタインはフラッシュカードを使わなかった - 本当のところ子供はどのように学ぶのか、なぜ積め込み教育をやめてもっと遊ばせるべきなのか」といった意味です。
このタイトルだけで内容はわかってしまうのですが、フラッシュカードを知らない方に、フラッシュカードとはどんなものなのか説明しておきましょう。
フラッシュカードというのは、とくに幼児教育で用いられている大判のカードに絵や文字などが書かれているものです。
親が子供にカードを見せながら単語を読み上げ、子供がそれを覚えていく、という使い方をします。
母親がフラッシュカードを素早くめくり、3歳くらいの子供が単語を次々と答えていく、という映像をきっとどこかで見たことがあるのではないでしょうか。
こんなに小さいのにもう文字が読めるなんて凄い、フラッシュカードの効果だ、ということのようです。
さて、本書の筆者の隣人に、このようにフラッシュカードを使って我が子の早期教育を行っている母親がいました。
ある日、この母親が筆者の家に訪れて、「自分の子供は天才かもしれないので、ちょっと見てもらえないか」と頼んできます。
たまたま筆者が、子供の発達に関する専門家だったからです。
筆者の前で、母親はフラッシュカードを使ったデモンストレーションをします。
カードに書かれている文字を子供が次々と答えていく。
一段落したところで、筆者はその子供に「ちょっとTVの画面に下に書いてある文字を読んできてほしい」と頼みました。
でも、残念なことに、その子にはテレビ画面の下に書いてあった文字を読むことができなかったのです。
筆者の結論はこうです。
「この子は文字を読むことができるわけではない。ただカードを暗記しているだけだ」
本当に「文字が読める」とは、知らない単語でも推測して読んでみることができる(英語は表音文字ですから)ということ。カードに書かれている模様の形を暗記していることが「読む」ということではない。
と筆者は言います。
少し、意地悪だと思う方もいるかもしれませんね。母親はきっと一生懸命なんだろうから、そんな厳密な話をしてもしょうがないじゃん、って。しかし、背景には早期教育用の教材やグッズ、CDやDVDが大量に氾濫していて、我が子を少しでも賢く育てたいと思う親ほど、そういったグッズに頼ってしまうという状況があります。
そして、これらのグッズを販売している教育産業が根拠にしている研究結果は、今ではほとんどが否定されているものであったり、あるいは誤解されてしまっているものだというのです。そんな研究を根拠にしたグッズに効果などあるのでしょうか?
では、子供の「読む力」を育むのにフラッシュカードが効果がないとすると、いったい親はどうすれば良いのか?
答えは単純です。
子供に話しかけ、子供の話を聞くこと。長くなってしまうので、細かいことはまた別の記事で書きますが、まとめるとこういうことです。 少なくとも言語に関する能力は、自然に発達するようにプログラムされているようです。
必要なのは、それを体感する環境なのです。
疑問に答えてくれないDVDや、単なる暗記をさせるフラッシュカードではなく、親が直接、子供と対話することが一番大事なことなのです。
次回は、もっと具体的に、子供の知能を発達させるために親としてできることはどのようなことなのか、レビューしてみたいと思います。