広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由
「フェルミ推定」という言葉をご存知でしょうか?
「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか」などの問題が有名ですね。
そんなの知らんがな、という感じですが。
とにかく「フェルミ推定」は、以前はあまり一般の書籍で見かけることも無かったと思います。
マイクロソフトの難解な入社試験などが紹介されるのとともにこの言葉も市民権を得てきたのでしょうか、最近ではビジネス書などでも見かけるようになってきました。
「フェルミ」というのはイタリア出身の物理学者です。
フェルミの同業者たちは、物理学の問題についてその核心をまっすぐ見通し、それを簡単な言葉で述べるフェルミの恐ろしいほどの能力を讃えていた。
みんなフェルミのことを法王と呼んでいた。間違うことがないように見えたからだ。
それと同様に印象的だったのが、答えの大きさを推定する方法だった。フェルミはこの能力を学生に教え込もうとした。いきなり、一見すると答えようのない問題に答えろと命じることがよくあった。世界中の海岸にある砂粒の数はいくらかとか、カラスは止まらないでどのくらいの距離を飛べるかとか、人が呼吸するたびに、ジュリアス・シーザーが最後に吐いた息の中にある原子のうち何個を呼吸していることになるかとかの問題である。
このような「フェルミ推定」(今ではそう呼ばれている)を考えるには、学生は世界や日常の経験についての理解に基づいて、大ざっぱな近似をする必要がある。教科書やすでにある知識に基づいてはいられないのだ。
知識や経験に基づいて答えを推定する。
これはビジネスで日常的に使われる必須のスキルと言えますね。
「フェルミ推定」で特徴的なのは、答えを求めるための道筋を重視していて、その過程の数値を推定することですましていることです。
間違えていてもよいので、大まかな答えを出して評価することを目的としているのです。
もし正確な答えが欲しいなら、同じ道筋に沿って、正確な数値を求めるための調査をすればよいわけです。
みなさんも「フェルミ推定」という言葉を知らなくても、同じことを日々やっているのではないでしょうか。
本書の原題は「If the Universe is Teeming with Aliens... WHERE IS EVERYBODY?」。
もし宇宙がエイリアンでごった返しているなら、みんなどこにいるのか?
という意味です。
「みんなどこにいるのか?」という言葉は、1950年にフェルミが昼食のときに発したと言われる「みんなどこにいるんだろうね」という疑問がもとになっています。
言い換えると「宇宙には生命が溢れているはずなのに、地球以外に生命が存在する証拠が見つからないのはなぜだろう」とのことです。
ここで「フェルミ推定」が登場します。
「発達した通信能力を持った地球外文明は銀河系にいくつあるか」
これを推定するための「ドレイクの公式」と呼ばれるものがあります。
ややこしいので割愛しますが、筆者の推定によれば、
われわれと通信しようとする文明が、今現在、百万あってもおかしくないということだ
そうです。
では、なぜそれらが存在するという証拠を発見することができないのか。
これが「フェルミのパラドックス」です。
本書では、この疑問に対して50通りの答えを提示して論じています。
筆者によれば、フェルミ・パラドックスに対する答えは3通りあります。
1. 地球外生命はすでに何らかの形でこちらに来ている。
一般的には、この答えが一番人気があるそうです。
SETI@HOMEの2001年の調査では94%が地球外の生命が存在すると答えています(SETIに参加しているのに「地球外生命を信じていない」というのもひねくれていますが)。もっともアメリカ人の70%以上は天使の存在を信じているそうで、多くの人が信じているからといって、真実であるとは限りません。
2. 存在はするのだが、何らかの理由で証拠が見つかっていないだけだ。
3. 宇宙にいるのは(少なくとも天の川銀河にいるのは)地球の生命だけだ。
50通りの考え方をもとに繰り広げられる思考実験、
それが本書です。
さすがに50も紹介されていると、それぞれについての考察が物足りない部分も出てきますが
それは読者に委ねられていると思っていいでしょう。
天文学に興味がないけれどSFは好きという人には最適です。