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ヤバい経済学

「割れ窓理論」という言葉をご存知でしょうか?

この理論によれば、治安が悪化するまでには次のような経過をたどります。

1.    建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す。
2.    ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
3.    住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。それがさらに環境を悪化させる。
4.    凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。

したがって、治安を回復させるには、

▪    一見無害であったり、軽微な秩序違反行為でも取り締まる(ごみはきちんと分類して捨てるなど)。
▪    警察職員による徒歩パトロールや交通違反の取り締まりを強化する。
▪    地域社会は警察職員に協力し、秩序の維持に努力する。
などを行えばよい。
(出典:『割れ窓理論による犯罪防止―コミュニティの安全をどう確保するか』)


1994年、犯罪の多発に悩むニューヨーク市で、ジュリアーニ市長と警察本部長ブラットンは犯罪取り締まりの新しい対策のひとつとして、この割れ窓理論(Broken Windows Theory)に基づいた対策をとります。
そして、1990年代、ニューヨーク市では殺人の発生率が73.6%減少するという結果が出ます。

ところで、割れ窓理論の背景にあるのは、1972年、アメリカ警察財団が行った犯罪抑止のための大規模な実験です。
その中のひとつに、警察官によるパトロールを強化する実験がありました。
この実験では、直接、犯罪発生率を低下させる効果はなかったものの、一方で住民の「体感治安」が向上するという結果がでました。
簡単に言うと、体感治安を回復することで、実際に犯罪を抑止できるという理論なのです。

実験結果で注目したいのは「犯罪発生率を低下させる効果はなかった」というところです。
体感治安を向上させることはできるけれど犯罪は抑止できていないのです。
※余談ですが、日本では現在、この実験と逆の状況になっていて、凶悪犯罪の発生率が低下しているのに対して、体感治安が悪化していると言われています。「物騒な世の中になった」と感じほど物騒になっていない、統計上はむしろ安全になっているのです。

別の調査によると、犯罪多発地域から再開発のため犯罪発生率の低い地域に住民移住させたところ、その住人たちが起こす犯罪の発生率は変わらなかったという事例もあります。
つまり、割れ窓理論とは反対のことが起きたということです。

では、なぜジュリアーニ市長は成功したのか?

実は、犯罪が減少しはじめたのは、ジュリアーニ氏が市長に当選した1994年ではなく、1990年からだというのです。
本書は、割れ窓理論とは違う仮説を提出します。

ヤバい経済学」。
原題は「Freakonomics」です。

もうすでに読まれた方も多いと思います。
本国アメリカでは100万部を突破し、日本でもかなり話題になった本です。

これだけ売れた原因はもしかすると、犯罪の低下と妊娠中絶の合法化の相関を巡る論争のせいかも知れませんが、経済をテーマにした本としては内容も一般の読者が非常に楽しめるレベルであるのは間違いありません。

未読の方に簡単に本書を解説すると
「インセンティブ」をキーワードに日常生活を解読しようとする本
ということになるでしょうか。

経済学って実は面白いんだよ、と教えてくれます。


麻薬の売人はどうしてママと同居しているのか?
相撲の力士は八百長をしているのか?
銃をおいてある家に子供を遊びにいかせるのと、プールがある家に遊びにいかせるのとでは、どちらが危険?
子供の名前と家庭環境の関係は?

子供の成績と子育てと相関する要因は
・親の教育水準が高い。
・親の社会的・経済的地位が高い。
・母親は最初の子供を産んだとき30歳以上だった。
・生まれたとき未熟児だった。
・親は家で英語を話す(あ、これは、もちろんアメリカでの統計データですよ!)
・養子である(実の両親の家庭環境と切り離されたことが影響する)
・親がPTAの活動をやっている。
・家に本がたくさんある。
注意したいのは「相関」ということは、良い意味だけではなく「負の相関」もあるというところです。

上記の要因と異なり、子供の成績と相関しない要因は
・家族関係が保たれている
・最近より良い界隈に引っ越した。
・その子が生まれてから幼稚園に入るまで母親は仕事に就かなかった。
・ヘッドスタート・プログラムに参加した(つまり早期教育をしたということ)
・親はその子を美術館へ連れて行く。
・よく親にぶたれる。
・テレビを良く見る。
・ほとんど毎日親が本を読んでくれる。

なかなか興味深いし、直感的に反発したくなる部分もあります。


もうひとつ、本書で深く頷いたのが、「世間に受け入れられる専門家」の条件。
具体的には子育ての専門家なのですが、大衆を相手にしているなら、どんな分野の専門家にもあてはまりそうです。
・やたらと自信たっぷりな言い方をする:この問題にはいろんな側面があって、なんてことは言わない。
・一般の人たちの感情に訴える:感情は筋の通った議論の天敵だから。
・感情のうち、とくに恐怖に訴える。


読み物として考えると、中盤だれる部分もありますが滅多にない楽しい読書体験ができると思います。