赤を見る
「クオリア」についての本。
著者である進化心理学者・哲学者ニコラス・ハンフリーのハーヴァード大学での講演を本にまとめたものです。
クオリアというのはもともと哲学の用語です。
例えば、「赤い光」を見るとき、その光を見ている人は「赤い光」を体験しています。
このときの主観的な体験における「赤の質感」は、波長760ナノメートルのの光そのものではなく、「赤」という体験が意識に上ります。
この意識の状態を「視覚のクオリア」と呼び、いったいどこから生まれてくるのか、と議論になっているわけです。
個人的には意識の働きを考えるのに「クオリア」という仮説を持ち出す必然性はないと思っているので、そのへんの説明をしている部分はあまり興味をひかれませんでした。
著者がもっとも言いたかったことも、クオリアそのものではなく意識がどのように進化したか、という話のようです。
著者の語る意識の進化の筋道は次のようなものです。
1. 外部から刺激を受け、局所的に反応する仕組みができる
2. その反応を(刺激を、ではなく)モニターする仕組み(意識)ができ、より高度な判断をすることができるようになる
実際に書いているのは、もっと複雑なことなのですが、この仮説の科学的な根拠はそれほど語られていません。
(進化心理学の研究は難しいでしょうね)
結論として、なぜ意識が重要か、について述べています。
意識が重要なのは、重要であることがその機能だから。
意識は、追い求めるに値する人生を持った自己を、人間のうちに作り出すように設計されているのだ。
意識は、この人生を生きることが大切で有意義なものと思わせるべく存在する。
逆説的な結論ですね。
科学のものを読んでいると思ったら、哲学の本だった。
そんな感じです。